日本経済新聞 2014年7月15日 Nippon ビジネス戦記

(Nipponビジネス戦記) ティッシュ配りで学んだこと

若いころ日本の大手旅行会社で働いていた私はロンドンから新宿の支店へ異動した際、新宿駅前の広場で広告入りのティッシュ配りをさせられた。マイナス1度の寒さの中、新卒社員と一緒に配り続けた日もあった。ロンドンで約2年間オフィスワークをしていた私が、なぜ新人と同じ扱いを受けるのか。当時の失望は大きく、日本に来たことは大きな失敗だったとさえ思った。

この旅行会社では日本企業のいい面も悪い面も学んだ。顧客のため100%の力で働く日本のサービス水準は間違いなく世界一だと知った。ただムダな残業など西欧人から見れば不合理な部分もあった。だから自分の会社では、日本の高いサービス水準を実現しながら、西欧の合理的な考え方やスピード感を持ち込んだ。いわば日欧のやり方の〝結婚〟だ。

今思えば、あのティッシュ配りこそ日本で成功するための決定的な経験だったと思う。会社の仕事をよく理解するためには一番下のレベルから仕事を学ぶ重要性を教えてくれたからだ。経営者となった今もこの視点を大切に経営にあたっている。